軽貨物ドライバー『地獄の菩薩行』

その荷物には、ドライバーの怒りと悟りが詰まっています。

時の移ろいと共に

狭い固定エリアを毎日朝から夜まで隈無く走る宅配ドライバー。この仕事は四季の変化を刻々と感じることができます。よく定点カメラの写真を見比べて、季節や年月の変化を見ることがありますが、まさに仕事中ずっとそれをやっている感じです。

 

東京では稲の香りなど広がりませんが、今の季節は神社の例大祭が毎週のように行われます。コンビニより多いと言われる寺社仏閣です。常駐の神職さんがいないような小さな神社でも、氏子地域があり、氏子組織が運営されています。日頃は誰もいない神社でも、年に1度の例大祭には、お神輿担いで地域を挙げて盛大に行うのです。

神輿や太鼓の行列には、長老から若手まで、揃いの半纏を着た地元の方々がそれぞれの役割を果たしながら、行列を作って町内を練り歩きます。宅配ドライバーは何とかこの行列に被らないように、配達ルートを微妙にずらしながら業務を進めるのですが、どうしても上手く避けられないこともあり、長時間足止めを食らうこともあります。

木曜日の夜、19時からの最終時間指定の荷物を配達中、数台の軽トラに分乗した地元の方々が通りにしめ縄を張る作業をしていました。お祭り本番は土日です。朝から夜まで断続的な交通規制が行われることが、捨て看板に告知されています。嫌だなぁ、困ったなぁと感じてしまいますが、自分が担当しているエリアの年に1度の大切な行事ですから、できる限り協力したいとは思います。

土曜日は朝から町内をさらに細かく区割りしたブロックごとにテントが建てられていました。地主さんの空き地や駐車場や私道に建てられたテントには、よしず囲いの受付と長テーブルを並べた席、神輿の展示とお囃子の山車が置かれていました。まだ準備段階なので、奥様方が大きな鍋を持って忙しそうに立ち回っていらっしゃいました。受付には地域の重鎮か陣取って、奉納金を受け取って芳名を貼り出していました。

私はこの町内の住民ではないので、はっきり部外者なのですが、担当エリアに住む皆さんのハレの日なので、なんとなく浮かれた気持ちで過ごしていました。お神輿の行列も交通規制も、うまくかわすことができました。賑やかなテントの中に、飛び入り参加の子供用にお祭りのハッピがハンガーにいくつも吊るされていました。そのハッピもハンガーラックも、数日前に私が配達したものです。

日曜日の夜、最終便の配達をしていると、数名の方々がテントの中でのんびりと酒を交わす姿が見られました。観光客や見物人で溢れかえるような大きな神社の大きなお祭りも良いですが、地元民の地元民による地元民のためのお祭りも、味があって良いものです。

 

(※ 写真はフリー素材です)